あの衝撃的なテロ現場では、事件から1年が経過しようとしているにもかかわらず、工事が黙々と進行していた。
 赤く錆びた鉄骨の十字架が深い悲しみと怒りを鎮魂しているかのように静かに建っていた。
 ビルに掲げられた巨大な星条旗、そして、「We will never forget」のメッセージが強く心に残っている。

 

 

 街行くバスの車体一面に、US OPEN出場選手が大きく描かれている。種々のポスターが、要所要所に掲げられている。「NEW YORK TIMES」には毎日違った一面広告が掲載され、大イベントを成功させようという意気込みがひしひしと伝わってくる。

 

 毎日50万人の乗降客が行き来するという巨大駅、グランド・セントラル駅の構内では、多くのイベントが開催されていた。特設コートではミスアメリカが参加するテニス教室が、優勝カップのレプリカを手にする記念撮影が、歴代USオープンの名場面のビデオ上映が、その他趣向を凝らした多彩な催し物が目白押しであった。
 スケールの大きな発想でニューヨーク市民にアピールしていた。

 

ピート・サンプラスとの記念撮影

ミニゲームに飛び入り参加した。




 キッズデーはUSオープンの子供の祭典である。センターコート(アーサー・アッシュスタジアム)の特設のステージでは人気グループが次々と演奏している。さながらコンサート会場である。テニスコートでは、クルニコア・ウイリアムズといった人気選手と子供達による的当てゲームが行われている。
 ダブルスは、アガシ・サンプラス組対ロディック・ブレイク組という豪華な対戦が実現し、大喝采である。
 私たちは、プレジデントルームに席を与えられ、心からテニスを楽しむアメリカ国民を肌で感じることができたのである。

 

 

 

 私たちのホテルは出場選手のオフィシャルホテルでもあった。選手達はすべて、このリンカーンに乗って試合会場に向かう。

 

 会場前は、ニューヨーク市警の全面協力による厳しい警備体制がしかれていた。何重ものチェックを受け、さらに持ち物は内部まで調べられる。

 

当日券を求める長蛇の列。今年度はインターネットによるチケットの購入が可能になったそうだが、その対応が十分ではなく、混乱に拍車を掛けたようである。



 

 華やかなUSオープン会場。(フラッシングメドー)
 中央にそびえるのが、センターコート(アーサー・アッシュスタジアム)(写真上)最上部からコートを見た風景。足が震えるような高さで、遠くにマンハッタンが見える。しかし、コート全体が見渡され、ボールの行き来や選手の動きがはっきりと見え、以外と穴場かもしれない。(写真下)
 







アガシが練習をしていた。速い、とてつもなく速い。全力で打ちまくっている。ボールがつぶれそうだ。そのスピードと迫力に度肝を抜かれる。(写真右中)
 好試合が展開されているコートは超満員となっている。(写真下)
 夜7時からナイトセッションが開始された。センターコートにステージができ、ゴスペルグループによるアカペラ演奏とニューヨーク市長のスピーチ。それが終わるとマッケンローとキング夫人が出場国の国旗を持った子供達を先導して登場。コートを一周して整列した後にニューヨーク市警・消防・ニュージャージー警察の人々が折り畳んだ星条旗を運び、コート中央で厳かに広げる。場内は大歓声と拍手に包まれる。国歌斉唱後2箇所から花火が上がる。全員スタンディングオベーション。興奮の絶頂である。(写真右上)
 その後の第1試合にセレナ・ウイリアムスが登場。第2試合はアガシの登場で、一段と高い声援がわき起こる。実に心憎い演出である。




 会場には大型スクリーンが設置されており、センターコートの試合の模様が映されている。スピーカーからはボールの行き交う音と歓声が流され、会場全体が臨場感にあふれている。上空にはフジフイルムの飛行船がゆるやかに旋回している。各コートの試合経過が電光掲示板で明らかになっている。食事のコーナー・記念グッズのコーナー・スポンサーのコーナーが巧みに配置されている。
 試合会場は、携帯電話の着信音が鳴ったり、上空をジェット機が飛んだり、観客が移動したり、雑然とした雰囲気であるが、観客のすべてが選手を激励し、選手はそれに応えてファイトを奮い起こし、ますます好ゲームとなっている。テニスというスポーツがアメリカの文化に根付いていることが実感できる。

 

 USオープンに参加した日本人選手は、女子が3名である。残念ながら男子は参加できず、ジュニア大会には男女ともに参加できなかった。
 同行したウイルソンジャパン株式会社のマット・ゴールド社長に対し、古賀部長は「全国高校総体シングルス優勝者のUSオープンジュニア参加資格の取得」を強く要望した。
 この素晴らしい環境と雰囲気の中で活躍する日本人選手が多く出現することを切望している。
 私は、子供達に対して暖かくも厳しく指導し、そして大切に育てようとしているアメリカ社会の底力を垣間見ることができたと思っている。
 このような素晴らしい機会を与えて下さった全国高体連テニス部と、すべての行程にわたって暖かい配慮を頂いたウイルソンジャパン株式会社マット・ゴールド社長と福永二朗氏に心から感謝している。