インカレレポート&「来いよ、来い!・・・」??
 高校総体と同じ頃、大学生の頂点を決めるインカレが東京で行われていました。高校生選手にとっても気になるところだと思いますが、JTAオフィシャルメールマガジン「テニスファン」29号に、元プロプレーヤー・現亜細亜大コーチ森 稔詞さん寄稿による詳細なレポートが載っていました。ぜひ高校生も読んでもらいたいと思い、森さんの了解、「テニスファン」の許可の上、ここに転載致します。
 このレポートの中で森さんが「あえて苦言を呈したい。」と書かれた部分があります。そしてそれは、そっくりそのまま高校生にも当てはまるのです。私もかねがね気になっていたのですが、インハイでの上位選手の言動は、あっというまに地方に波及しますので、現在では地方の高校生まで、相手に向かって握りこぶしを作り「来いよ、来い!」になってしまいました。世界に通用するマナーでなければならないと思うのですが・・。ぜひ森さんの「苦言」をしっかりと受け止めて下さい。       平成14年9月6日
 管理者

◇ 元プロプレーヤー・現コーチの見た今年のインカレは?<<-----------------◇

●全日本学生テニス選手権(インカレ)は8月3日〜11日、昭島市の「昭和の森テニスクラブ」で開催された。過去には日本テニス界の草分け的存在であり、ウィンブルドンなどで活躍、自己最高世界ランキング3位の故・佐藤次郎氏や、全米選手権ダブルス優勝者の加茂公成氏、宮城淳氏、単複全日本優勝・元デ杯選手の渡辺康二氏、解説でおなじみ、71年のデ杯で豪州を破った時の立役者柳恵誌郎氏、日本初プロプレーヤー・現デ杯監督の神和住純氏、7年連続全日本ランク1位を続けた福井烈氏など、数え切れないほどの名選手が歴代優勝者に名を連ねる、男子70回の伝統を持つ学生日本一を決める大会がインカレである。(書ききれなかった多くの諸先輩方、申し訳ありません)

今年の大会は初日が週末と重なり多くの観客や学生で通路が通れないほどの盛況

男子シングルス注目は今年アメリカからの留学生で日本大学に入ったLee Minn。来日前はプロとしてツアーに参戦しており、ATPランキングダブルスで300位、シングルス500位の成績があった。左利きからのサーブ、トリッキーなプレーもするが確実なリターン、そして落ち着いた試合運びでひとランク上のテニスをする。同じく留学生で韓国から近畿大学3年に在籍の李興雨。昨年インカレは準優勝。一般大会でも活躍の李、そのパワーは今大会、群を抜いている。注目のこの2人はシングルス4回戦という早いラウンドでの厳しい対戦。結果は李から4-6,6-1,6-1。最後は李のパワーが勝り、ギャラリーも興奮の試合だった。

その李は準々決勝、早稲田大学のエース宮尾祥慈というタフな対戦。この2人は昨年の大学王座(S6本・D3本・計9ポイント)決勝の早稲田VS近大戦で、対戦成績4&#8722;4とポイントのかかったNo.1同士の戦いでファイナルタイブレークともつれた中で、宮尾が勝ち、早稲田に優勝をもたらした宿敵のライバル同士。今回は李から6-3,6-3。双方ともしっかりとしたサーブ・ストロークからネットにつなげられるプレーで、どちらに勝敗が転んでもおかしくない内容の好試合ではあったが、宮尾にはもう少しどん欲に、勝ちにつながるプレーをしてほしかった。

シード以外でベスト8に入った2人が注目のニューフェイス。1人は、日大1年の軸丸真志。ルックスもさることながら、しっかりとしたスト
ロークを軸に、パッシングそして、ここという時にはネットでのプレーもそつなくこなせるテニスで、3回戦で第7シードの五藤健介(近大)を4-6,6-3,7-5で、4回戦では第11シードの末田英(近大)をストレートで退けた。もう1人は、亜細亜2年の比嘉明人。小柄ながらフォア・バック共に両手打ちとハンディはあるが、それをはるかにカバーするフットワークにリターン、並外れた運動能力、たまに見せるパフォーマンスは笑いを誘うが、2回戦で第8シードの堂野大和(早稲田大)に6-1,6-4。3回戦では同期の乾 祥一郎(亜細亜大)にファイナルタイブレークで、4回戦は一昨年の高校チャンピオン、第9シードの金山淳思(早稲田大)に3-6,7-5,6-3で勝ち初のベスト8を決めた。

さあ大会も残り二日。ひとつめの準決勝、李興雨(近大)VS宮崎靖雄(亜細亜大)昨年もこの2人は準決勝にコマを進めていて、李は決勝へ宮崎は準決勝で敗れていた。宮崎にしてみれば、是が非でも勝ちたいこの試合。そんな気持ちからとプレーがうまく咬み合わず4-6,6-4,2-6、で涙をのんだ。宮崎は今大会サーブ&ボレーをやり続けた唯一の選手で、ストローク中心のプレーをする選手が多い中、所々センスを垣間見るプレーは面白い存在であった。今後の成長に期待したい。

もう一つの準決勝、畠中将人(法政大)VS落合優次(日大)。畠中はストロークはしっかりしていて、パスも得意。中でもカウンターがうまく打ってくるタイプにはめっぽう強い選手。駆け引きも知っている。一方の落合は日系ブラジル人。ストロークもしっかりしていて攻撃も出来、ボレーもこなす。とにかくタフな選手でファイターである。楽しみにしていた対戦ではあったが、落合から6-1,6-4。畠中はいつものプレーをせず、積極的に行き過ぎた。少し気負っていたのかもしれない。セカンドはふんばったが時すでに遅し。落合がしっかり受け止めていたという感じの試合だった。

大会最終日決勝戦は李興雨(近大)VS落合優次(日大)。私はうまく李を受け止められれば落合が。李はしっかり我慢してプレーできれば勝機はあると思っていたが、予想通りの展開に。李は過去2回インカレ決勝で敗れており、少し優勝ということにナイーブになりすぎていたのかも知れない。今回落合はステディにプレーし、勝つということに対して、大会参加の選手の中で一番貪欲に戦っていたと思う。落合の初優勝を心から祝福したい。

ダブルスはLee Minn・和田太一(日大)ペアが初優勝。決勝の相手は、国吉・宮崎(亜細亜大)6-7,6-3,4-1途中棄権。ファイナル2-1で宮崎が足をひねり、2ゲームやったがやむなく棄権。昨年も宮崎は決勝で敗れているだけに悔しかっただろう。誉めるべきはLee・和田ペアだ。ファースト4-1から逆転され6-7。セカンドも1-3とワンブレイクダウン。国吉のサービスで30-0。そこから一本の凡ミスでゲームをひっくり返した。最後まで諦めない執念がみられたLee。ペアの和田は1年生。今後の活躍が楽しみだ。

シングルスは終わってみれば2年連続の留学生対決。6年連続の留学生の優勝。国籍が日本の私にしてみれば、もっと頑張れ日本選手と言いたい。頑張っているのはわかるがもっと頑張れとあえて云いたい。日系ブラジル人の落合君と話した時に国籍は何処にあるの「日本?ブラジル?」と聞くと自信を持って「ブラジルです」このプライドを日本の学生は忘れているんじゃないかと。島国根性とかそんなんじゃなく純粋に「日本です」と言える自信を持ってほしい。国籍がどうのとかじゃなく1人の人間として純粋に競い合ってみたら!!この大会は「全日本学生テニス選手権大会」なんだから。今回少なくとも李や落合は日本の学生より、勝つということに対して執着心を持っていた。異国と言えるこの地でこれだけ頑張ったことに敬意を表したい。日本の学生(こんな括りはいけないのかもしれないが)よりも彼らは大人だった。

さあ今度は女子。これまた正直な印象は「良い選手いるじゃない」って感じ。今は、男子に比べて世界に近い位置にいる女子。しかし才能を最大限に引き出そうとしている選手はごくわずか。これには少々、残念。各大学に、伝統だけでなくしっかりとした指導者・システムがあれば相当チャンスだと感じた。

試合はベスト8に1・2年生が5人、3・4年生が3人。ここにも若手パワー。

「おおっ」と思ったのは、ノーシードの野沢絵梨(慶応大)。フットワークもなかなかしっかりと打つこともできる。ただ、ここという時に、打ち急いでしまう感じがある。準々決勝、第1シードの北崎(亜細亜大)を下しベスト4に進出した試合は、ファーストセットのままでいくと北崎のペース。そこからひっくり返した、精神力には感心した。北崎自身、年下の選手だということもあり、気持ちの面での押されているような感があった。第1シードとしてのプライドがほしかった。

もうひとつ、平田育子(亜細亜大)VS西川祐子(松蔭女大)の準々決勝。大学3年・4年としてのプライドをかけた試合。今回は4-6,6-3,6-4で運動能力の高さを感じた平田に軍配。その勢いで準決勝も野沢を翻弄。6-2,6-4で初の決勝進出を決めた。

ボトムハーフの準々決勝は才木理絵(松蔭女大)VS波形純理(早稲田大)。波形が大きさを感じさせるテニスで才木の最後のインカレを封じた。

準々決勝の最後は園田女大同士の対戦。パワフルさを感じさせる崔寶羅と、バランスが取れクレバーなテニスを展開している山本麻友美。6-2,7-6(4_)で山本が勝利。

波形と山本がそれぞれ準決勝へ。波形は昨年惜しくも決勝で敗れているので、リベンジを果たしたいはず。一方山本は、このチャンスを生かし波に乗っていきたい。結果は、山本が2-6,6-4,6-2で勝利。ここでも気持ちが波形を上回っていたような気がした。

女子決勝は両者とも初優勝を賭けての対戦。だが正直物足りなかった。平田が頭の中の整理がついていないまま、集中力に欠け、当然の敗戦だった。いかに、トーナメントを最後まで戦いきれるか!体力・気力・技術の3つの力をバランス良く保ち続けることの大切さを痛感した試合だった。初優勝した山本は園田女大のコーチ細木祐子氏(元インカレチャンピオン)が今回はチャンスだよ。チャンスを生かして頑張れ。そんな声が聞こえてきそうなくらい勝負に賭けていたように思えた。初優勝「おめでとう!」。

女子ダブルス決勝は西田・細川(筑波大)VS第5シード才木・西川(松蔭女大)。西田・細川組が、バランスの取れたダブルスを展開してこれも初優勝。このペアは、女子にしては珍しくスマッシュを決めまくる、というイメージが強かった。初優勝本当におめでとう。

今大会。私自身色々なこ事を考えさせられた。ここであえて苦言を呈したい。

全員ではないが、分かっているの?と問い掛けたくなるような場面が多くあった。まず、大学生ってこんなに汚かった?髪の毛は「金髪」頭にはなぜかタオルを巻きトレパンを膝まで半分たくし上げ、中には煙草を「プカッ」。ここはテニスコート君達は選手という事を理解してほしい。さらに相手に向かってのガッツポーズ。「こいよー」と誰に言っているの?と言いたくなってしまう。テニスってそんなものだっけ?モラルも何もあったもんじゃない。大学に入る前に何を習っていたの?もっとカッコ悪くてもいいから、必死にやっている姿が、かっこいいのに・・・。緊迫した試合で最後にスーパーショットを決める姿を観客の人は観に来ているのに。君達は感動を与えられる立場にいて、テニスはスポーツであるということをもっと自覚して欲しかった。

これは選手といつも一緒にいて、伝えたりサポートしてあげれる監督やコーチが大学には少ないのではないか。学生は大学王座やインカレのタイトルを取るためだけに(それも大事だが)大学に入るのはもったいない。全国から良い選手が集まる大学でなぜ選手が伸びていかないのか?テニスは大学に入る為の手段?それだけだとしたらとても寂しい。学校側がより学生をしっかりサポートする事を考えてほしいまた、学連の運営上の努力で練習コートが開放されるにもかかわらず、練習している選手はごくわずか。試合後の練習ほど練習になるタイミングはないし、練習しないと強くはなれない。学生生活4年間、後悔のないよう精一杯やってみてはどうか。尚、開催日程は再考を要すると思う。学生の大会開催中に国内で開催されるATPやWTAの大会がある。世界にチャレンジしたくとも授業や旅費などを考えると海外の遠征はなかなかきつい。国内での大会はすごいチャンス。その辺を考慮して、是非日本テニス協会と学連は日程の調整を検討して欲しい。こういうことこそが学生強化に繋がると考える。

シードの作りかたも再考して欲しい。男子4回戦では、決勝まで進んだ李と春の関東学生優勝のLeeが対戦。正直違うブロックに居れば、ベスト4は確実視された両選手。学生大会だけの参考資料でシードを決めるのではなく、ATP・JOPポイントをより考慮したシードの作成方法があればより盛り上がったかもしれない。

最後に審判。「やらされている」といった感じジャッジしている者が多く見受けられた。(学生もボランティア、「なんだよ!」と思ってしまう気持ちはわからないでないが、どうせやるんならしっかりやろう)線審なのにラインを見ていない。主審をしているのに自信を持ってコールをしない。もっと毅然とした態度で責任を持ってほしい。主審・線審も大会を盛り上げる立派な役どころ。コール1つで好勝負が台無しになってしまう。

ただ、頑張ってくれていることも沢山。学連は試合後の練習コートの開放など運営上大変な中努力してくれている。またインターネットでの試合の結果やオーダーオブプレイなどの掲載など、この場を借りて「ありがとう!」と感謝したい。

そして、昨年から決勝戦の日に日本テニス協会・盛田会長が足を運んでくださりトロフィーのプレゼンテーターを努めて下さり本当にありがたいことでした。

また歴代優勝者がこれだけ沢山駆けつけて下さったインカレはなかったでしょう。渡辺康二・坂井利郎・神和住 純・土橋登志久・森井大治・宮地弘太郎・坂井利彰古橋登美子・細木祐子・遠藤 愛・竹村りょうこ・田口景子・常盤 安(敬称略)

最後になりますが、学生の中にもタレントのあることにビックリ、驚きでした。私達が大学でプレーしていた10年前には、こんなにうまい選手・将来性を感じる選手はそうはいませんでした。彼らはジュニアで有望視されて大学に入ってきた選手。私はもっと活躍してもおかしくないと心から思っています。もっと本気で全日本タイトルや世界に挑戦してもいいのではないでしょうか。君達には夢や目標があるでしょう。私は君達が出来ると思っているし、チャレンジしてほしいと思います。さあこれからです。数多くの天才プレーヤーが学生テニスにも沢山います。是非努力して頑張ってもらいたいものです。

すごい選手が沢山いると思っているので、今が悔しくて悔しくてなりません。
「頑張ろうぜ college tennis player!」

             亜細亜大学テニス部コーチ 森 稔詞