みんなで努力、マナーの問題
平成17年4月12日
管理者:長野県高体連テニス部委員長 下岡隆志 管理者へe-mail
 4月になって急激に春めき、遅れていた桜も一斉に花を開きました。もう早い都道府県では、高校総体(インターハイ)の予選が始まるのですね。この予選で敗れてしまうと、高校の部活動から引退、という3年生も多くいると思います。最後の試合の後、こぼれ落ちる涙を止める事が出来ない、そんな光景を毎年目にするのもこの大会です。ありきたりの言葉で恐縮ですが、選手諸君には「残りわずかな部活動、悔いの残らないよう一生懸命取り組んでください」、とお伝えします。

 第27回全国選抜高校テニス大会が3月末に終了しました。団体戦ならではの、激しい応援合戦と会場を包み込む興奮に、初めて見た人はびっくりしたのではないかと思います。私も5年前にこの全国大会を初めて見たわけですが、その華やかな応援とともに、選手や応援団のマナーの悪さが印象に残っています。サーバーに対してレシーバーは皆、「こいやー、こい!」と無礼なかけ声を発していましたし、それが以降田舎にまで普及して、全国至る所で「こいやー」の嵐でした。この問題は各所で心ある方々に指摘して頂き、その結果今ではほとんど耳にしなくなりました。あんなに大流行だったのに、「なんだ、やればできるじゃん」、って本当に思います。5年前、あるコートを取り囲む大応援団が、あがってしまいボールをネットにかけ続ける相手校選手に、「おうおう、今日は大漁だのう」とはやし立て、笑いものにしている状況を目にしました。笑いものにされた選手は、ますますうつむき、たぶん息子の晴れ姿を見に来た親御さん達だと思いますが、こちらも悲しそうにうつむいていました。えぐられるようなヤジがそこここで聞かれ、「これが高体連の全国大会?」と驚愕しました。しかしこちらも、急速に改善され、現在では相手校を誹謗する応援もまったく耳にする事がなくなりました。そのヤジを飛ばしていた高校は名門校ですので、全国大会で以降も良く目にします。もちろん今はそんな応援はしないのですが、それでもその高校に対する5年前のイメージとどうしてもだぶってしまい、いまだ素直に応援できないでいます。単なる傍観者であった私ですらそうですので、当該の選手やその親にとっては、一生残る心の傷となっているのかもしれません。

 さてそうなると、マナーについて残された課題は何であるか、もう高校生の試合を見つづけておられる方にはおわかりかと思いますが、そうなんです、それは「ガッツポーズのつくり方」なのです。
 メジャーリーグベースボールが開幕して、イチロー選手や松井選手が大活躍をしています。メジャーリーグでは、ホームランを打っても、タイムリーヒットを放っても、決して選手はガッツポーズを見せません。淡々と塁を廻ってベンチに入ってなお観客の拍手が続けば、ベンチを出て帽子を取って観客の声援に応えています。もし塁上でガッツポーズを取れば、次の打席では頭を狙って投げられても仕方がないのだそうです。なぜだかわかりますか?。野球は、相手があってのスポーツです。自分がホームランを打てた、これは無上の喜びなのですが、マウンド上には自分の失投を悔やむピッチャーが存在するはずです。同じスポーツに係わる仲間として、自分の感情を抑えて相手の心情を思いやる、これが本当のスポーツマンシップだからです。
 それでは高校テニスでは、どうなんでしょう?。第27回全国選抜高校テニス大会では、興奮した選手がエースを決めた後ネット際まで歩み寄り、相手にこぶしを突きつけ、「よし」とか「やー」とか声をはり上げている、そんなシーンをよく見かけました。「しまった、コースを間違えた」とか、「打ち損じた」と思っているまさにその時、目の前にこぶしを突きつけられた相手選手は、どう感じていたのでしょうか?。男子ばかりではありません、女子のダブルスなどでも、ポーチが決まった瞬間2名が揃ってこぶしを突きつける光景も目にしました。
 ガッツポーズがすべていけないとは言いません。しかし、これから始まる高校総体では、「相手に握りこぶしを突きつけるガッツポーズは、やめていただきたい」、とお願いしたいのです。
 「ガッツポーズは自分を奮い立たせるもの、相手を威嚇するものではない」。「マナーとは、それに反する行為があってもただちに罰せられるものではありませんが、相手をいたわる気持ち、リスペクト(respect/尊敬)する気持ち、そういったものがそこには存在するように思います」。こう書いているのは亜細亜大学テニス部コーチの森稔詞さん(テニスマガジン2004年9月号「知ってた!?これは明らかなマナー違反!」)。第27回全国選抜高校テニス大会の表彰式において、日本テニス協会の盛田正明会長は、以下の2点を選手に話されたそうです。1点目は、将来の日本を代表して世界の大会で活躍できる選手になってほしいという願い。2点目は、コート上におけるテニス選手のマナーやスポーツマンシップの点においても日本の最高位であってほしいという願いです。そして高校時代にテニスに熱中しテニスが強くなり体力も強健になるということだけでなく、「テニスを通じて将来立派な社会人となるための、正しいマナーとスポーツマンシップを備えた人格が形成されること」が大変重要である、とも言われたそうです。
 大流行した「こいやー」が皆さんの意識の持ち方次第で収束したように、この問題も柏インターハイで昔話になっていたら良いですね。

 さてもう1点、生徒の応援マナーの向上の中で、気になりだしたものに、「親の応援」があります。団体戦の場合、応援の生徒達はスタンド最前列に並び声をそろえて、歌ったり、応援をしたりします。それに対し子どもの晴れ舞台を見に来た親御さん達は、それぞれスタンドに座っての応援になります。親の応援は、生徒の大応援の合間でなければ選手の耳に届かないので、どうしても微妙なタイミングになりがちです。かくして選手がサービス動作に入る直前などに、「がんばれ!」とか、「これからだよ!」とか「ばんかい!」とかの声がかかるわけです。また、1ポイントごとに「あー、何しているんだ…」とか、「なんであんなショットが拾えないんだ」とつい大きな独り言やため息をついている方も、よくお見かけします。しかし申し上げにくいことなのですが、スタンドで息をのんで試合を見ている観客にとって、それって結構耳障りな事なのです。また、サーバーの微妙なタイミングの狂いを生じさせているような気がする場面もあります。親御さんは興奮してヒートアップしていますから、「ともかく私がこの子を応援してやらなければ…」と意気込んでいるかと思いますが、スタンドにはいろいろな方が座っています。あなたの隣りに座っているご夫婦は、相手選手の親御さん、という事はありませんか?。試合の後に子どもから、「お母さん、応援ありがとう。お母さんの声が聞こえて元気が出て逆転できたよ」、と言われたら、お母さんは無上の喜びでしょうか?。でも、ちょっとご注意!、そう言う子ども、それで喜ぶ親、どちらも親離れ子離れが出来ていない可能性があります。「かんべんしてくれよ!恥ずかしいじゃないか。応援に来てくれるのは構わないよ。でも、俺を信じて静かに見守ってくれよ」、たぶん多くの高校生はそう答えるはずです。子ども達は、部活の中で鍛えられ、仲間の中で成長しています。親は、そうですね、温かく見守って良いプレーに拍手をしてあげる、そんな応援が良いのではないでしょうか。どうしても声を出したい方は、立ち上がって生徒の応援の列に加わったら如何でしょう?。生徒達は、応援の仕方・タイミングをよく知っていますので。でも、声がかれてしまうかもしれませんね。

プレーヤーの皆さん、
 対戦相手はあなたに尊敬と友情の念を抱いてくれますか?
 観客は敵方も味方側も、あなたに惜しみない賞賛の拍手を送ってくれますか?

 (文責:管理者 下岡隆志)