「45日問題」、再び
平成15年9月4日
管理者:長野県高体連テニス部委員長 下岡隆志 管理者へe-mail
 ただ今高速バスの中でこの文章を書いています。本日、県高体連専門委員長会議が長野市であります。長野県は広い県です。私のすむ南部の飯田市から、県庁所在地の長野市まで高速道を利用して3時間!1時間半の会議のために、毎回往復6時間をかけることになります。まあ、そのおかげで、文章を書く時間が生まれたわけですが…。更に明日からは、全国選抜高校テニス大会長野県大会が、同じく長野市で開催されます。たぶん全国で最も早い県大会ではないかと思いますが、私はディレクターとして、また自分の高校の監督として選手を引率し2泊3日で参加します。役員をしているとどうしても仕方がない部分はあるのですが、学校の授業で自習が多くなってしまい、生徒には申し訳ない限りです。

 さて本題の「45日問題」ですが、7月末の長崎総体中に定例の全国専門委員長会が開催され、結論から申しますと「今後も継続する」という事が決定されました。
 ここで「45日問題」とは何か?という整理をしておきますが、全国高体連テニス専門部は平成14年4月より「高校生の海外遠征は、長期休業中を除き年間45日以内とする。違反する場合は、高体連の大会(総体、選抜)への出場を認めない。」という内規(参照して下さい)を適用しました。
 これに対し、各方面から反対、賛成、様々な意見が沸き起こりました。まず、反対論ですが、テニス協会、ジュニア関係者から多く出されました。「高校の段階でプロを目指すのか高校を選ぶのか、判断を求めるのは酷」、「ごく少数の有望な選手を高校テニスから閉め出す内容」、「結果として高校総体がレベルの低い、魅力のないものになってしまう」等です。賛成論は、高校関係者、あるいは保護者からが多かったようです。「ほとんど学校へ出ず海外を転戦する選手が、なぜ高校の大会に出てくるのか」、「高校の部活でコツコツ努力して全国を目指す、それが高体連のあり方ではないか」、「何らかの歯止めは、絶対必要」などです。

 以前も書きましたが、私個人としては基本的に海外遠征を学校教育の一環として認める学校があれば、それはそれで構わないと考えています。しかし一方で、「45日」が適切かどうかという問題はありますが、全く歯止めがないとしたらどうなってしまうのか、という危惧も感じています。現在全公立校とほとんどの私学には、進級に必要な出席日数の制限があるはずです。規定以上欠席すれば留年となります。海外留学を自校の必要単位と認定する学校は増えてきました。しかし海外留学とは、留学先で高校に通い授業を受けることを指し、海外遠征とは別のものです。もし仮にある私学が売名行為で有望選手を抱え込み、年間を通じての海外遠征を認めたとしたら、果たしてそれで良いのでしょうか?また同様に海外の恵まれない有望選手を留学生として登録し、高体連の大会参加を義務づけ実態は海外転戦、こんな事も可能になります。
 今後の議論の方向は、「45日規制」が是か非かという問題から、どういう規制が必要なのか、それが45日なのか、別のものなのか、という点に代わっていくのではないかと思われます。そんな中で、この問題に「教育論」を絡めて論じる方がおられますが、それは如何なものかと思います。「海外遠征で得られる経験は貴重なもので、その体験こそ生きた教育。机にじっと座って授業を聞いているより有益」という論調で、確かに「海外」でしか得られない体験はあります。しかしその生徒にとって、「学校に通うことでしか得られない体験」は犠牲になっているはずです。物事を選び取るに当たって、それが何事であれ、プラスの面とマイナスの面があります。その両者を勘案し私たちは決断しているはずです。私自身、今の学校教育のあり方が必ずしも良いとは思っていません。しかし多くの現場の教師たちは、「良い授業をしよう」、「生徒に良い感動を与えよう」と日々奮闘しているはずで、その気持ちを単なる一般論で否定してしまうのは、論者にとっても有益ではないと思います。

 今思うと「45日問題」は、出るべくして出てきた問題だと思います。テニスというスポーツがメジャーになれるとしたら、その過程で避けて通れない問題だったのかもしれません。我が国でメジャースポーツに成り上がった「サッカー」ですが、正月の高校選手権には5万余の観衆が国立競技場へ詰めかけます。その観客の中に「この大会は高校最高峰の大会ではない」と異を唱える人はいません。しかし現実には非常に多くの有望選手はJリーグのユースチームに所属しているわけで、彼らは高校選手権には出場できません。
 現状のテニスの状況を見ると、世界を目指すトップの層があまりにも薄いのです。世界で活躍する為には、早くから世界に出て技術的にも精神的にも経験を積まなければならない事は明らかです。しかし、有望ジュニアを支援する制度、そして何より資金が不足していることも明らかです。また、国内でテニスプレーヤーが、「名声」とそして何より十分な「富」を持ち得ていない事も事実で、この状況の中、プロを目指して失敗するよりも高校・大学を出て安全に企業へ、と考えることもまたやむを得ない状況です。そんな状況ですから、海外へチャレンジする場合も、家が金持ちであるか、親が働いて必死に支え続けるかに限定されてしまいます。高体連テニス専門部は今年のUSオープンから、ワイルドカードを独自に獲得し選手の派遣を始めました。これは、大変な交渉を重ね実現したものですが、どうも「高体連はトップの選手まで一元化して管理下に置こうとしている」という批判もあるやに聞いています。しかし、それは全く逆なのです。高体連の考えている所は、世界へのチャレンジの「複線化」なのです。個人的には海外に出られないけれど、高校テニスの中で頑張って顕著な成績をあげたもので才能ある選手がいるとしたら、なるべく海外挑戦への道を開いてあげよう、というもので、日韓中遠征・オーストラリア遠征も同様の趣旨で、乏しい財源をやり繰りして対応しています。また、全豪、全仏についても全米と同様の可能性があるという事で、交渉をしている所です。問題は、「複線化」のもう一方の側にあります。「何とかより多くの選手に海外へチャレンジしてもらいたい」、「日本のジュニアの中から世界で活躍する多くの選手が輩出して欲しい」。この事は、私たち全員にとっての悲願です。

 私の知り得た情報、寄せられたご意見を私なりにまとめて「45日問題」を整理してみました。高体連の側も「より良いものになっていくのであれば、現状の内規にこだわらない」と回答しています。皆さんの建設的な意見によって、この問題が止揚されていくことを願っています。

 *<この文章は私見であり、高体連の見解ではありません>